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HATTORI食育クラブ 食育通信No.49

対談

「道の駅」を拠点に郷土愛あふれる”母の味”を発信
   ー伝統の継承と地域の活性化のためにー

株式会社 南美舎
代表取締役
櫟原八千代

服部栄養専門学校 校長/医学博士
服部幸應

シンボルは巨大クジラの骨格標本

服部
『道の駅・和田浦WA・O!』のパンフレットを見せていただきました。全長26メートルですか、店の前に展示されているクジラの全身骨格標本が圧巻ですね。
櫟原
これはシロナガスクジラの骨格標本ですが、和田浦漁港はツチクジラという種類のクジラを捕る、日本に4か所ある捕鯨基地のひとつです。
服部
房総半島南部は昔からクジラが沿岸に回遊してくる地域として知られていますね。
櫟原
房総のクジラ漁は江戸時代から脈々と受け継がれてきた地元の産業です。今年も6月20日から8月31日まで、政府から許可される全国64頭のうちの26頭のツチクジラを捕獲することができます。
地元では「くじらのたれ」という保存食が有名です。お持ちしましたので、召し上がってください。
服部
ほう、ビーフジャーキーのような食感で、酒の肴にもいいですね。初めて口にしましたが、これは南房総ならではの食べ方なのですか。
櫟原
そうです。クジラの赤肉を薄く切って海水で味をつけて天日干しします。
服部
代々受け継がれてきた味なのですね。
櫟原
常温での保存には苦心してきたようです。また、クジラの肉には筋目があって、切り方を間違うと固くなって大変。そんな苦労から、この地域ならではの食べ方となったのだと思います。筋目の見方や味付けは、お母さんから娘や嫁に教えます。
服部
大切なことですね。今、日本の家庭では、食の伝承が行われなくなってしまいました。
櫟原
料理を持ち寄ると、同じ「くじらのしぐれ煮」でも、10軒集まれば10種類の味付けがあって驚きます。ごくごく普通の家庭料理なので、人に教えたりレシピが出回ったりすることなく、その家独自の味が育ったのでしょう。

自然からの恵みをきちんと感じて

服部
和田町ではクジラをいただく、ということが普通のことなのですね。
櫟原
はい、クジラ漁が解禁となる初漁のときには、毎年、地元の小学5年生が解体作業を見学します。
大包丁を使ってバリバリと音が響く現場です。「はぎ肉(切り落とし)」を家に持ち帰るポリバケツが解体場の周りに並ぶのは夏の風物詩。おばあさんたちが喜々として生肉のバケツを持ち帰る姿も、子どもたちには見慣れた光景です。
服部
クジラの解体ですか? それはまさに「食育」ですね。
周りを海で囲まれた日本は、四季折々の自然から、多様で豊かな食材を得ています。自然の恵みである生命。それを与えられる現場を子どもの頃から目の当たりにすると、自然とともに生きる心が養われ、自然への尊敬と感謝する心が育まれます。
櫟原
ここで生まれ育った私たちにとって、クジラは郷土の誇り。クジラ漁の歴史や食文化を守り伝えていかなければならないのです。
地元飲食店や土産店などの女将たちと一緒に「和田浦くじら食文化研究会・おかみさんの会」を立ち上げて、新しいレシピを開発するなど、積極的に活動しています。
服部
郷土の食文化を生かして地域の活性化を推し進めることができたら理想的です。2012年にオープンされた「道の駅」が、その集大成でもあられるのですね。

〝食文化〞の誇りを地域の皆さんと

服部
ところで「WA・O!」って面白い名前ですね。櫟原社長のネーミングですか?
櫟原
みんなで相談して決めたのですが、いい名前だなって自負しています。「『W』わいわいと『A』あたたかみのある『O』おらが街」の頭文字をとったもので、驚く「ワオ!」の意味も含まれています。
服部
行ってみたいと思わせる楽しさがありますね。
櫟原
じつは、もうひとつ、地元の方言を使って「『W』和田を『A』あんとかしねば『O』おいねやでよ」という意味もあるのです。
服部
地元の方言を取り入れての〝決意〞のようなものですね。
櫟原
はい、「道の駅」設立のきっかけは市町村合併です。合併した7つの町村の中で「道の駅」がなかったのは和田町だけでした。
服部
そこで、道の駅設立に和田の鯨食文化に一家言ある櫟原さんが立ち上がったのですね。
櫟原
民間経営にこだわりました。外部のテナント任せにはせず、地域の住民の手によって、地元の漁港や農家から届く新鮮なものを直売。その食材で地域の主婦が腕をふるって、家々に伝えられてきた「母の味」をレストランで。「地域の住民のチカラを集結!」。何よりも、このことに心を砕きました。和田町が豊かな食文化の発信地であるという自覚と誇りをもってほしかったのです。しかし、構想の途中で東日本大震災があるなど、ここまでの道のりは一筋縄ではありませんでした。
服部
それが、いまは「海と花とクジラの町」をキャッチフレーズに、年間数万人が訪れる、大人気の「道の駅」に。地域の雇用にも貢献していると聞きました。
櫟原
女性たちのパワーはすごいですよ。漁に出て何か月も帰らない男たちの留守を支えて、たくましく生活する南房総のオンナたち。どんなことも、あきらめないんです。
服部
すばらしいことですね。

旬の味わいをていねいにつたえたい

櫟原
今回、HATTORI食育クラブに入会させていただいたのを機に、「食育」の観点から改めて「道の駅」のあり方を考えてみようと思っています。南房総は黒潮の影響で温暖な土地です。冬から春に掛けてはどこよりも早く花の季節がやってきます。夏場はクジラ漁。一年中お魚と野菜が豊富にとれます。
そのなかで、例えば一年のうち一週間だけ浜にあがる「ひじき」があるですが、そのおいしさと言ったら……。季節限定、今ここでしか口にできないスペシャルな食べ物が、まだまだあります。広めたいですね。
服部
そこに足を運ばなければ口にすることができない地域ならではのものに出合えることが「道の駅」の醍醐味ですね。そして、その時期にしか口にできない「旬」の味わい。失われつつある「はしり」「さかえ」「なごり」といった、こまやかな「旬」のうつろいを、ていねいに知らせる場となってほしいです。
櫟原
はい! 地元の女性たちが子どもと一緒に「食」について考え学ぶ基点となるような活動もやりたいですね。「道の駅」の可能性を広げたいと思います。
服部
「食育」は皆さんが毎日積み重ねていくものですから、地域の中心となって頑張ってください。私も応援させていただきます。
櫟原
夏場のクジラ漁の間に、ぜひ一度お運びください。
服部
ありがとうございます。

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