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HATTORI食育クラブ 服部幸應コラムNo.26

わたしとは何だ?

そう考えているのは脳です。脳は分野ごとに機能がことなります。そしていくつものニューロンが電気信号を送り、複雑に作用し、あらゆる表れ方をしています。
体はたんぱく質や、水や、脂質や、ミネラルや、あらゆるもので形成され、微量な成分によってこまかな働きを制御されています。ナトリウムとカリウムのアンバランスだけで体の機能が狂い、生物としての死さえも招く、微妙な微妙な調整です。
たんぱく質を構成するアミノ酸、それを指示するコドン、伸びる髪も、癒えていく傷も、免疫機能も、内臓のはたらきも、自分の意識とはまるで別の自分。バラバラで複雑なモジュールのよせ集めのようです。

知らないところで動いている自分は、ある食べかたをすれば健康になり、ある食べかたをすれば栄養の過不足で不健康になります。食べものもまた複雑で、栄養素も多様、たくさんの栄養素をふくむ食べものも多様、食べあわせ次第でまた虹色に変わります。
すべてを解明しながら食べていては、どんなに完璧なバランスでもストレスフルな生活になってしまいそうです。

植物学者の中尾佐助氏によると、現在栽培されているすべての穀物は、文書のある歴史より古いものであり、農耕が始まって間もない中石器時代に大発展した名残であるそうです。昔の日本ではあわ、ひえなどの雑穀が多く栽培され主食となっていましたが、「主食となる穀物」はさまざまに姿を変える米に集約されていきました。
多様な料理に使える農作物の栽培は継続拡大し、利用範囲のせまいものは栽培が縮小していく傾向があるようです。

では、料理の多様性の利点とは何でしょうか。
食物にふくまれる栄養素はそれぞれ特性があります。たとえば肌をつくるコラーゲンの生成や免疫機能に関わり、抗酸化作用のあるビタミンCは、水溶性で熱に弱いものです。体内でビタミンAに変わり抗酸化作用のあるカロテンは油と一緒にとると効率よく吸収されます。おなかの調子をととのえる食物繊維は食物が加熱されカサが減ると多くとりやすくなります。
では、ビタミンCとカロテンと食物繊維をふくむ野菜はどう食べると良いのでしょう。
栄養は一度の食事でまかなえません。日々の食事のなかで、生食する、ゆでる、煮る、蒸す、炊く、焼く、炒める、揚げるなどさまざまな調理法で食物を食べるということは、さまざまな栄養素をとるためには大切なことなのです。
多様な料理ができる食物は栄養をとるために効率がよかった、ということかもしれません。
食文化は土地と人にあう作物や料理を選んできた経験のつみかさねです。

食べものがふくんでいる栄養は、食べものが生きるために必要としていたものです。食べものもまた、人間と同じく複雑なモジュールが集まる生きものです。複雑なモジュールの集まりが複雑なモジュールの集まりを複雑に組みあわせて食べている。生きものを生かす環境もまた、複雑なモジュールの集まり・・・。
機能レベルで世界をみたら、地球や宇宙まで渾然一体のもののようです。

味覚は生きるための味を見極めるように、五感など感性を豊かにもつことは、バラバラになった思考を越えて選ぶ力を与えてくれます。
そして、私たちは健康な食べかたをすでに知っています。
身土不二、一物全体、自然にそった旬のものをさまざまな調理法で、おいしく楽しみながら食べること。
感性と経験は私たちの健康のいしずえです。

自分が自然の一部であることを知っていれば、おのずと食育は実践できそうです。

おいしい料理とは何だ?

バランスの良い食事でビタミンなどの栄養素をきちんととることはとても大切です。ひとつ忘れがちなのは、栄養素は調理法によっては多くが失われてしまうということ。せっかくバランスのとれた食材をそろえても、栄養を上手にとらないともったいない話です。また栄養素はおいしさの源でもあるので、栄養がある料理はおいしい料理とイコールでもあります。

では、栄養素を無駄にしにくい調理法とはどんなものでしょうか。栄養素や食材の種類によりけりですが、たとえば水溶性のビタミンなどでは熱や水にさらされる時間を短くすることです。水を加えず食材の水分を利用したり、圧力鍋を使って加熱時間を短くしても良いでしょう。

食材や栄養について知り、おいしくつくろう、食べ物に感謝して無駄なく食べきろうという心が、おいしく栄養のある料理をつくるポイントかもしれません。

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