現在公開中の映画「マリー・アントワネット」をご覧になりましたか?
フランス政府の協力のもとで、本物のベルサイユ宮殿でロケを行い、マリー・アントワネットの当時の豪華絢爛な暮らしぶりが見事に再現されていると評判です。
マリー・アントワネットの豪奢きわめた暮しはフランス革命と1793年のギロチン処刑によってピリオドを打ちます。そしてフランスは、革命によって無政府の混乱した状態となりますが、ここで頭角を現したのが、ナポレオンです。
ナポレオン・ボナパルトは1769年、コルシカ島に生まれ、一砲兵隊から成り上がっていった人物です。ナポレオンは数々の戦争を勝ち抜き、民法を制定するなどフランスを民主制に導き、やがてヨーロッパを掌握する皇帝ともなります。
ときに独裁的と評価されるナポレオンですが、生まれた土地や環境による差別を経験して、「自由と平等の父」と呼ばれるジャン=ジャック・ルソーに傾倒したといわれています。その美意識ともいえる思想は、民法の祖となる「ナポレオン民法」をはじめとして、政治、経済、教育などのさまざまな分野に大きな功績を残しています。
その中のひとつが缶詰めの開発。
ナポレオンは皇帝となる1804年、遠征中に食糧がとだえたり、食べ物が腐ってしまうといった問題を解決するために、食べ物の新しい保存方法や携帯方法を懸賞つきで募集したのです。
特賞に選ばれたのが、フランスの食品加工業者ニコラ・アッペールのびん詰め方法。
広口びんに食べ物をつめてコルク栓で軽く閉じ、加熱をするとすぐにかたくしめ、コルクをろうで固めて密封する、というものです。
「加熱・密封する」という画期的なアイデアが、常温で流通できる「缶詰め」発明のきっかけとなったのです。
しかし、びん詰めは重く壊れやすいため、持ち運びが不便でした。
そこで1810年、英国のピーター・デュランドがブリキ缶に保存する方法を発明し、缶詰めの原型が誕生したのです。のちに1860年代にフランスの細菌学者ルイ・パスツールが微生物の存在を発見し、細菌の増殖をおさえることで日持ちするという理由が明らかになると、缶詰めは本格的に広まりました。細菌が発見される50年も前に、缶詰めのテクニックは生まれていたのです。
缶詰めが「民衆に懸賞つきで募集する」ことで生まれたというエピソードからも、民衆の「自由と平等」の力を広く最大限に生かす、ナポレオンの柔軟な発想力が感じられます。
またナポレオンの美意識の一端は、彼が皇帝となって広めた「アンピール(帝政)様式」に表れています。 アンピール様式とは、古代ローマ帝国のオマージュともいえる美術・建築の様式で、ローリエの葉、やしの葉、星などが文様として使われていることが特徴です。
マリー・アントワネットが愛し、ベルサイユ全盛時代に流行った、女性的で繊細優美な曲線のロココ様式とは対照的に、ナポレオンのアンピール様式は大胆で力強く重厚なデザインです。市民による政治をしていた古代ローマ帝国のように、自由と平等の大国を築き、維持していきたいというナポレオンの気持ちが、アンピール様式に込められていたのかもしれません。
インテリアは真紅のビロード地に金糸でナポレオンの頭文字であるNをあしらったり剣やローリエの花環、翼を広げた鷲などのモチーフが好んでつかわれました。
家具の素材は金の塗装などがほどこされた豪華なもの。
椅子の脚には獅子や剣、獣足など、荘厳なモチーフで重々しく厳格なアンピールスタイルが表現されています。
現代の東京ではN.Yスタイルや北欧モダンなど比較的洗練されたモダンテイストのインテリアが流行しているため本格的なヨーロッパのクラシックスタイルをみることのできる場所は非常に限られています。