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HATTORI食育クラブ 服部幸應コラムNo.25

キリストとわび茶

街はすっかりクリスマス一色。日本でクリスマスが祝われはじめたのは明治時代からです。クリスマスが日本人に浸透したきっかけをご存知でしょうか。
クリスマスの少し前、12月21日は冬至です。一年の中でもっとも太陽が遠くなり、もっとも昼が短く、夜が長いときです。冬至には滋養のあるかぼちゃや小豆を食べて、ゆず湯に入ります。ゆずは太陽を模しているともいわれ、身を清める意味もあるようです。一陽来復といい冬至は太陽の復活を祝いますが、イエス・キリストの生誕を祝うクリスマスと重ねられ、現在の形となりました。

クリスマスのように、日本の文化とヨーロッパの文化が融合し、人々に親しまれたものは数多くあります。

たとえば天ぷら。天ぷらはもともと南蛮料理で、戦国時代に日本に伝わり独自に発展したといわれています。語源の一説はスペイン語の「tempora」です。天上の日という意味で、イエス・キリストの復活後の昇天を祝い、鳥獣の肉が禁じられ、魚肉の揚げ物を食べる日のことをさします。
ちなみに、ギリシャ語の「キリスト」はヘブル語でメシヤ(救世主)、「油をそそがれた者」という意味です。
別の説ではポルトガル語で調味という意味の「temporas」、どの説をとっても、室町・戦国時代に国交のあったヨーロッパの国々の影響があらわれているようです。

また、織田信長や豊臣秀吉に仕えた千利休が確立した「わび茶」の精神にも、当時国交のあった異国の影響があらわれています。わび茶は禅宗など仏教の考えに根ざしている茶の湯を発展させ、一切の無駄をはぶいた簡素なものですが、じつはキリスト教の精神も反映されているのです。当時貿易のさかんであった堺の出身の利休は、ポルトガルやスペインから来た宣教師と交流があったといわれています。
わび茶で器をまわして茶を飲むなどの作法は、キリスト教で行われるミサの「最後の晩餐」を模した、パンとぶどう酒を口にする儀式とかなり近い所作であるそうです。 そして茶室までの道のりは、生まれた時も最期も無一物だったキリストの生涯を表現しているという解釈もあり、飾り立てる地位も名誉も置いていき、身一つで茶室にたどり着くようにつくられているといいます。武士の魂といわれる刀でさえ、茶室の小さな入り口によって置くことになります。またせまい茶室の入り口は、聖書の「せまい門から入りなさい」という言葉の影響であるという説もあります。
禅語の無一物無尽蔵と、キリスト教の飾るもののないあるがままの自分を受け止め、また相手に対しても同じくあることの折衷。一期一会、やがて別れは訪れようと、このときに相手を尊重するもてなしの美の極みが、わびさびだったのでしょう。

国や時代は違えど、人々は共通の意識を持つことがあるようです。キリスト教のイベントや冬至祭、わび茶などの精神には、清めリセットする、飲食する、新たに生まれ変わる、という要素が共通して組み込まれているように思えます。
食の観点から、1年前と現在では私たちの体はほとんど違う物質でつくられています。絶え間なくつくりかえられている体は紛れもなく食べものでできており、動植物の死は自分の命になります。
食べものを選択することは、自分が何者になるかを選ぶことだともいえそうです。
そして健康や平穏な暮らしのためには、周りの人や食べもの、生物を生かす環境を大切にすることが必要なのだとおのずと理解することができます。国も文化も宗教も越えて、ゆきつくところは同じなのかもしれません。

冬至やクリスマスを経て、大晦日には108の煩悩をひとつひとつ消してゆく除夜の鐘を聞きながら、天ぷらをあしらった年越しそばを食べ、新たな年を迎える。新たな自分は、自分の意思や行動によって変わるのでしょう。
イベントが目白押しな12月、ぜひ周りの人に思いやりの心を持って、かけがえのない時間を楽しみましょう。

天ぷら、人気のわけ

魚介の肉にうどん粉を水でといた衣をかけて油で揚げた料理「天ぷら」は、魚食民族である日本人が得意の和洋折衷で作りあげたものです。関西をはじめ西日本では、さつま揚げ・精進揚げを天ぷらと呼ぶ地域があったり、また、砂糖の衣をまぶしたお菓子にも天ぷらと呼ばれるものがあったりと、私たちが共通認識しているものとと当てはまらない「天ぷら」も各地に存在します。

他国の色々な揚げものの中で日本独自の方法を確立できたのは、材料のバラエティが豊富なことと、大正から昭和初期にかけて質の良い家庭用の植物油が多く生産されたことが大きな理由です。また肉食の習慣が多くはなかったので、積極的に油をとることが必要だったために好まれたのでしょう。

天ぷらには日本人の繊細な味覚がよくあらわれており、種の持ち味をひきたて、サクサク、じゅわっとした触感など、豊かな味わいを楽しませてくれます。

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